岳南電車、逆境にも負けず走る強さの秘密。

ローカルコラム

2019.09.20

三浦 奈生

マーケター三浦 奈生

皆さん、電車・鉄道はお好きでしょうか。

もしかしたら、お子さんが乗り物が好きだったり、大人でも鉄道ファンでなければ…普通は交通手段のひとつにすぎないかもしれません。

現在、鉄道会社は日本でおよそ200社ほどあるようで、静岡県だと、静岡鉄道、遠州鉄道、伊豆箱根鉄道など9社が存在しています。その9社のうち、おそらく最も規模の小さいものが、富士市のローカル線である「岳南電車」(通称、岳鉄・がくてつ)です。

富士市のJR吉原駅から岳南江尾駅のわずか10駅、片道9.2km。車両は1両、多くても2両の単線です。駅舎も古いし、無人駅がほとんど、切符は紙。有人改札ではあのハサミで切符を切ってもらいます。戦後間もない頃、富士の工場群のために敷かれた貨物線が始まりで、いわゆる昭和レトロな「地方のローカル線」です。

このようなローカル線は、自動車利用の拡大や、沿線住民の高齢化、都市部への人口集中などにより全国どこも経営は厳しい状況にあるようで、この岳鉄も例外ではありません。特に岳鉄は主目的が貨物利用だったこともあり、その貨物線を廃止してからは厳しい状況のようです。

目的は「移動手段」から「乗車を楽しむ」へ。

さてそんな岳鉄ですが、実は全国から鉄道ファンが集まり、また地元民にも愛される路線になりつつあります。なぜならば、普通のローカル線にはない魅力があるからです。「ある」というよりも「生み出している」のです。

その代表的なものが、岳鉄オリジナルのイベント列車です。
・月に2回開催される「夜景電車」
・毎年夏に開催される「ジャズトレイン」「ビール電車」


「夜景電車」とは、月に2回、夜に運行される列車で、2両編成の後ろの1車両のみ照明を落とし走る電車のことです。

富士と言えば製紙工場を始めとする工場地帯。実は日本夜景遺産にも登録されています。岳鉄は一部その中を走るため、工場萌え・夜景萌えな人も、そうでない人も、普段の見慣れた景色とは違う、なんともノスタルジックで幻想的な気持ちを味わうことができるのです。(しかも夜景鑑定士である乗務員さんのガイド付き。復路は紙製ランタンによる穏やかな光の車内照明になります)

「ジャズトレイン」「ビール電車」も文字通り、社内でジャズの生演奏やビール飲み放題の列車で、例年7~8月の土曜日の夜に2本程度運行されています。

真っ暗にした電車で走る。車内でジャズライブ。地元グルメと一緒にビールを飲む。
利用者数の多くないローカル線だからこその、逆境を逆手に取ったイベント電車。工場群・夜景という地域の持つ特性をフルに活用し、その結果、ここ数年岳鉄は全国からの注目を浴びています。

つまり、電車を「移動するための乗り物・手段」から「電車に乗ること自体を楽しめるイベント」「素敵な時間を過ごすための手段」に目的を明確に変化させていることで、新たな魅力を、新たな人たちに伝えることができているのだと思います。

これは鉄道会社に限らず、他業界でもいえることですね。
鉄道だからって「人やモノを運ぶ」だけにとどまらないように、従来のサービスや商材の範囲では少し限界がきている流れかもしれません。

例えば小売店だから「モノを販売する」だけでいいのだろうか。カーディーラーだから「車を販売する」だけでいいのだろうか。そこに、人が集まったり楽しめたりする仕掛けがあることで、もっとその商品や企業自体も愛されるかもしれません。

今度の週末は、ぜひのんびりと岳鉄に揺られながら、そんなことを考えてみませんか?

最後までお読みいただきありがとうございました。

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